あのライブハウスのマスター

もう15年以上前になりますが、高校生の頃、アマチュアバンドをやっていました。気の合う仲間と4人で、最初はリハーサルスタジオに入るのもおっかなびっくりでしたが、練習を重ねてくると、「誰かに見てもらいたい!」と思うのは自然なこと。とある人の紹介で、ライブハウスでのイベントに出演できることになりました。

生まれ育った関東の地方都市でライブハウスはその一件しかなく、幼い頃から前を通っては、カラフルな髪の人や黒い格好の人が店の前にたむろしていて「おっかねえ!」と思っていた場所です。自分がまさかそこで演奏することになるとはな、と感慨もひとしおだったのですが、ライブ当日、そのライブハウスに足を踏み入れてびっくりしました。開店前の暗い店内。誰もいないようで、暗い空間に「ごめんくださーい」と弱々しく声をかけたところ、壁に沿って設置されたソファーで黒い影がムクッと動き、思わず僕らは身をのけぞってしまいました。その黒い影が、ライブハウスのマスターだとは思いもせずに。

「誰だオメエラは!」と発する声の主の姿は、長髪にジャージ、なんだか現代の山賊のようなギラリとした眼が特徴的な、できればお近づきになりたくないタイプの人でした。「今日ライブでお世話になる者です…」とさらに弱々しい声で応えると、マスターはその脂っこい顔をクシャッとさせて、「おお!待ってたよ」と突然柔和な表情になりました。寝てたくせに。

と、初対面では面食らったこのマスターとそのライブハウスですが、見た目とは裏腹にとても思いやりの強い人でした。その後何回もそのライブハウスで演奏をさせてもらい、僕が就職のため上京するときには、「忙しい時こそ、音楽を忘れるなよ」と、今でも大事にしている言葉をかけてもらいました。今でもふとその頃のことを思い出すことがあります。あのマスター、元気に若者を驚かせているかな。

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